彼女にとっては邪魔な元カノに新たな恋人がいるのなら喜ばしいはずなのに、先程以上に険しい顔で睨みつけられ、凛は困惑した。

さらに芹那の隣に立つ孝充も同様に、眉をしかめて不快だと表情で訴えてくる。

「凛、君は……僕と付き合っていながら副社長とも」
「聞き捨てならないな」

孝充が責めるような言葉を凛へ向けたのを、亮介が凍てつくほど冷たい声音で遮った。

「俺が恋人のいる女性、それも大事な秘書に対して中途半端に手を出すとでも?」
「い、いえ! 決してそういう意味ではなく……」
「それなら不用意な発言は控えろ。見る目のない男と別れたのを知って口説き落としたんだ、文句を言われる筋合いはない。それからここは職場だ。いい加減、ふたりとも仕事に戻れ」

亮介は「立花、行くぞ」と凛に声を掛けると、話は以上だと言わんばかりに歩き出す。

凛は悔しそうにこちらを睨みつける孝充と芹那をその場に残し、亮介に従って足を踏み出した。