その視線に耐えられなかったのか、亮介はそっぽを向いたままぼそりと呟いた。

「この年で初めて恋を知った男は厄介だな」
「……え?」
「それでも、もう手離してやれない」

亮介は口の端を上げて小さく苦笑すると、ふたりの間のほんの少しの隙間も許せないというように腕の力を強める。

再び彼の胸に顔を埋めることになった凛だが、聞き逃がせない彼の本音をもう一度確かめたくて、その体勢のまま彼の言葉を繰り返した。

「初めて、恋を知った……?」

誰に?と聞くほど、凛は鈍感ではないつもりだ。けれど、信じられない。亮介も凛と同じように想ってくれているということだろうか。

期待に胸が高鳴り、心臓が肌を突き破って出てきそうなほど暴れて脈打っている。

「一種の契約結婚などと言っておきながら、俺は初めから君に惹かれていた。専属秘書になった時から、ずっと」

初めて耳にする亮介の想いを、凛は浅い呼吸を繰り返しながら聞き続けた。