亮介の専属秘書となって半年足らず。こんな風に親しげに身体に触れてくることなど、これまで一度もなかった。

彼は仕事以外には興味を持たず、浮いた話も聞いたことがない。秘書とはいえプライベートをすべて把握しているわけではないけれど、今は特定のお相手はいないだろう。なんなら女嫌いだとの噂もある。

(もしかして副社長、今の話を聞いてたから……)

凛はハッとする。冷静に彼の発言を考慮すれば、今自分が取るべき言動は自ずと見えてきた。

「ふ、副社長。これは一体……」

突然、自社の副社長に先週まで自分の恋人だった凛との交際を匂わされ、孝充は目を瞠っている。しかしそれ以上の言葉は紡げないらしく、ただ視線を彷徨わせているのみ。

凛は心の中で亮介に詫びながら、視線を彼から孝充と芹那に移した。

「彼が今言ったとおりです。私にはもう新しい恋人がいるので、チーフに未練もありませんし、ご結婚を邪魔するつもりもありません」
「立花さんが副社長と? そんなことあるわけないじゃないですかぁ!」

先程まで勝ち誇って微笑んでいた芹那が、あからさまに不機嫌な顔で言い放つ。