複雑な気持ちが湧いてくるのを、俯き唇を噛み締めながら耐えていると。

「情報を誰に渡したか、他に共謀している者がいないかを徹底的に調べる。証拠があるのだから言い逃れはできないだろう。だが、今日は凛が心配で原口は林田さんに任せてきた」

亮介の大きく温かい手がそっと凛の頬に触れる。涙のあとを拭うように滑らされ、くすぐったさに小さく首を竦めたが、肝心なことを聞かなくてはと居住まいを正す。

「それで、新ブランドはどうなるんですか?」
「どうもしない。コンセプトやパッケージを似せてぶつけてくるようだが、そもそもあちらは既存ブランドで、リニューアルするとはいえ方向性もコスメの質もうちとはまるで違う。多少の批判は覚悟の上で真っ向勝負する」

その表情からは自信が漲っていて、微塵も不安は感じられない。

きっと勝算はあるのだろう。多少発表が後出しになったところで、リュミエールのコスメが他社に負けるはずがないと。

凛はホッとして胸を押さえたが、ふと疑問がよぎる。

「よかったです。でも私を疑っていなかったのなら、どうして先に帰れだなんて……」
「写真付きのメールもデスクの引き出しにあったUSBも、明らかに凛を貶めようという意図が見える。君に危険が及ぶ前に安全なところへ連れ出したかった……というのも本音だが、実際は君が近くにいるとあの写真がちらついて集中できそうになかった。仕事しか興味のない堅物副社長が聞いて呆れるな」