凛は頷いたものの、まさか真面目な孝充が他社に情報を流すなど思いもしていなかったため、いまだに驚きでいっぱいだった。

「チーフが、どうして……」
「君を裏切ってまで近藤と結婚報告をしたのにあんなことになって、居辛くなって他社へ転職しようと考えていたようだ。大方、逆恨みで俺との結婚が決まった凛に罪を被せ、こちらの情報をもって美堂へ好待遇で迎えてもらおうと画策したってところか」

あまりにも身勝手な話に唖然とする。浮気したのは孝充の方だし、芹那との結婚が破綻したのは彼女が妊娠を偽っていたからであって凛には関係ない。

亮介との結婚が決まって幸せそうにしているのを許せなかったのだとしたら、それは自業自得で、亮介の言う通り完全な逆恨みだ。

(でも……一年近く付き合っていながら、好意を持たれていると実感したことがないって言ってた……)

交際当時は少しずつ孝充を好きになろうと努力していたつもりだったが、彼のために可愛くなろうと意識したり、ふたりで会う時間を作ろうと必死になったり、頼って甘えてみたいと思うこともなかった。

亮介と一緒の時間を過ごす中で、初めて人を心から好きだと実感できたのだ。

孝充に請われて交際を了承したにも関わらず、ちゃんと好きになれないままに付き合っていたことだけは、凛にも非があるのかもしれない。