「ふ、副社長。おはようございます」
「朝からなにを騒いでいるのかと思えば」

申し訳ございません、と頭を下げようとした凛のそばまで歩み寄ると、亮介はそっと凛の肩を自分の方へ抱き寄せた。

「ふ、副社長?」
「君も新しい恋人がいると言い返せばいいのに」

凛は足元をふらつかせながら、驚いて隣を見上げる。

「なんでも飲み込んでしまうんだな、君は。まぁ、そんな健気なところに俺は惹かれたんだろうが」
「あのっ」
「重役と秘書が恋愛関係になってはいけないという法律も社則もない。俺は凛との関係を隠さなくても構わないが」

呆気にとられたまま、主である亮介の端正な顔を見つめ続けた。

誰もが羨む美貌を持ちながら、決して周囲に愛想を振り撒いたりせず、常に厳しい顔をして職務にあたっている彼は実直で生真面目で、一部の社員は堅物副社長などと呼んでいる。

そんな彼が凛の肩を抱きながら、いつもは引き結んでいる口元を緩め、柔らかい眼差しを向けてくる。