それを、こんなくだらないことで大切な仕事を奪われなくてはならないのかと、凛が震える唇を噛み締めていると。

「こんな場所でなにを騒いでるんだ」

芯のある低い声が響き、凛は弾かれるように目を開けて声の主を探した。

重役フロアの廊下は絨毯敷きになっており、靴音が響きにくい。気付けなかった己の失態に項垂れたくなるが、そんなことをしている場合じゃない。

視線の先には、不機嫌そうに眉根を寄せているが非の打ち所のない美青年。

社長のひとり息子であり、自身も副社長のポストに就く海堂亮介が立っている。

百八十センチを超える長身でスラリとした体躯、フランス人の祖母譲りのヘーゼルアイは否が応でも周囲の人の目を惹く。

苺にハチミツをかけたような甘い顔立ちだが、輪郭はシャープでどこか男らしさを感じさせる絶妙な容貌。まるで彫刻のように美しく、化粧品会社の御曹司として完璧なルックスだ。

ダークブラウンの髪は地毛らしく、緩いパーマがかかっている。

整えられた眉がキリッとした印象を与え、笑顔を見せずに形のいい口元を引き結んでいるため、甘いマスクながら恐ろしいまでの迫力がある。