「立花さん。人の婚約者とふたりきりでコソコソ話すなんて、非常識なことはやめてください。じゃないと、周りに変な誤解を招くでしょう? あなたと孝くんは無関係の他人なんだから」

笑顔の仮面を貼り付けてはいるものの、敵対心をまるで隠しきれていない。

奪ったのは芹那で、奪われたのは凛の方だ。

それなのに、なぜこんな風に敵意を向けられなくてはならないのだろう。

芹那の発言を不快に感じ、それを諌めようともしない孝充に心底幻滅した。

ひとつ息を吐き出すと、凛は彼女の険のある眼差しを受け止めて反論した。

「コソコソ話してなんていません。チーフに呼び止められたので立ち止まっただけです」
「私たちのお祝いの場から途中でいなくなるなんて、追いかけてほしいって言ってるようなものじゃないですか。そういうズルい手を使うの、みっともないですよ」
「お祝いの場? 今は朝礼の時間ですよ。個人的な話をする場ではありません」
「負け惜しみですか? でも彼が選んだのは私です。それはそうですよね。深窓の令嬢なわけでも、大したルックスなわけでもないのに、いい年してもったいぶる女なんて面倒ですもん」
「近藤さん!」