彼はいつも冷静沈着で、感情的になっているところなど見たことがない。

「あ、あの、原口チーフ」
「付き合っていたこの一年で、僕は君に想われていると実感できたことは一度もない。いつも凛は冷静で、結局僕に頼ったり甘えたりしてはくれなかった。それどころか、君は副社長の第一秘書に抜擢されて、ますます僕との距離は開いた。だから……」

だからなんだというのだ。

凛が上手に孝充に甘えられなかったから、浮気をしてしまったとでも言うのか。

苦しそうに歯を食いしばっている孝充を呆然と見つめた。

(どうして……。裏切ったあなたの方がそんな顔をするのはズルい……)

たしかに凛は他人にうまく甘えられるタイプではないが、それをわかっていて告白してきたのは彼の方だ。

『熱心に頑張る甘え下手な君を、僕が支えたいと思ったんだ』

近しい上司ゆえに異性として意識していなかったが、告白を機に孝充の人となりを改めて見つめ、一週間の猶予をもらったのちに交際に頷いた。