2月に入ると、美紅と伊織は一気に忙しくなった。

実際に建築工事が始まる前に、神主、設計者、棟梁、現場監督など工事関係者を集めて地鎮祭を行う。

それを皮切りに、二人は京都に足を運ぶ機会が増えた。
さすがに車ではなく新幹線で移動し、現地で1泊する。
勉強を兼ねて色々な旅館に泊まって回った。

工事は順調に進み、どちらかと言うと内装や家具、装飾についての打ち合わせがメインになっていく。

美紅は祖母を連れて、色々な職人の工房や窯元にお邪魔した。

「焼き物はやはり、京焼・清水焼で揃えましょう。京焼は、茶の湯の流行を背景に江戸時代初期から、ここ東山山麓地域を中心に広がった焼き物のことよ。清水焼は、清水寺の参道である五条坂で作られていた焼き物なの」

祖母は美紅や、宿で働く予定の従業員を前に説明する。

「京焼・清水焼には特定の様式や技法がある訳ではなくて、色々な技法が融合されています。都のあった京都が、日本各地の選りすぐりの材料と職人が集う場所であったことと、その文化を後援する寺社仏閣、皇族、貴族などの存在が大きいわね」

更に美紅は伊織と、京都の焼き物作りの振興のために設立された施設も訪れた。

京焼・清水焼の優美なフォルムと典雅な絵付け、技を極めた職人の手による造形の妙、色彩豊かに絵付けを施された器の数々…

「京焼・清水焼の大成者と言えば野々村仁清だけど、現代の若手陶芸家の作品も素晴らしいな」
「本当ですね。伝統を守りながらも、若い感性と技術で新しい風を吹き込んでいるようですわ」

二人は感嘆のため息を洩らしながら見て回った。