ラウンジに入ると、以前と同じように照明は点けずに美紅は明るい月を見上げる。
伊織は暖房で部屋を暖めながら、カウンターキッチンでコーヒーを淹れた。
「どうぞ。ソファに座って」
「はい、ありがとうございます」
二人並んで窓からの景色を見ながらコーヒーを飲む。
「本当に不思議な気分。夜の森にお邪魔して、妖精達がキラキラ飛んでいるのを眺めているようで…」
うっとりと呟く美紅の横顔を、伊織は微笑みながら見つめる。
「君はとても情緒が豊かな人だね。昔からの血筋が君の中に息づいているのだろうな」
「そうでしょうか?」
「ああ、きっとそうだよ。昔の記憶とか、ふと自分の中に感覚が蘇るとか、そういうことはあるの?」
「いえ、特にこれと言って記憶はないのですけれど。どうやら武士の血は、家族の中でわたくしが一番受け継いでいるようで、何と言いますか、闘争心が湧いてきて困ることはあります」
穏やかな口調で恐ろしいことを言う美紅に、伊織は思わず仰け反ってしまう。
「そ、そうだね。それは俺も、なんとなく感じていた、かな」
「まあ!お気づきでしたか?お恥ずかしい。これだからわたくしは、恋愛だとか結婚にも向いていないのでしょうね」
「え、そんなことはないと思うけど」
「ですが、なかなかおしとやかに振る舞えなくて…」
うつむく美紅を見て、伊織は思い出す。
会議室で、年輩の役員達のヤジをものともせず、凛としていた美紅の姿を。
「俺は君のことを、とても素晴らしい女性だと思うよ。美しくてたおやかで、強くて毅然としていて…。所作や立ち居振る舞いも優雅で、着物がとてもよく似合う」
「ありがとうございます。でも、ジーンズを履いて車をかっ飛ばしたりもしますけれど…」
「そ、それは、まあ、うん。そうだけど。でも!ほら、色々な魅力があるってことで」
慌てて取り繕うと、美紅は何とも言えない表情で伊織を見た。
「気を遣わせてしまって申し訳ございません」
「いや、本当にそう思うよ?」
「ありがとうございます。でもわたくしは、一生独り身でも構いませんから」
「え、そうなの?」
「はい。その方が気楽でいいですし」
「そうなんだ…」
伊織はなぜだか妙にがっかりした気分になる。
伊織は暖房で部屋を暖めながら、カウンターキッチンでコーヒーを淹れた。
「どうぞ。ソファに座って」
「はい、ありがとうございます」
二人並んで窓からの景色を見ながらコーヒーを飲む。
「本当に不思議な気分。夜の森にお邪魔して、妖精達がキラキラ飛んでいるのを眺めているようで…」
うっとりと呟く美紅の横顔を、伊織は微笑みながら見つめる。
「君はとても情緒が豊かな人だね。昔からの血筋が君の中に息づいているのだろうな」
「そうでしょうか?」
「ああ、きっとそうだよ。昔の記憶とか、ふと自分の中に感覚が蘇るとか、そういうことはあるの?」
「いえ、特にこれと言って記憶はないのですけれど。どうやら武士の血は、家族の中でわたくしが一番受け継いでいるようで、何と言いますか、闘争心が湧いてきて困ることはあります」
穏やかな口調で恐ろしいことを言う美紅に、伊織は思わず仰け反ってしまう。
「そ、そうだね。それは俺も、なんとなく感じていた、かな」
「まあ!お気づきでしたか?お恥ずかしい。これだからわたくしは、恋愛だとか結婚にも向いていないのでしょうね」
「え、そんなことはないと思うけど」
「ですが、なかなかおしとやかに振る舞えなくて…」
うつむく美紅を見て、伊織は思い出す。
会議室で、年輩の役員達のヤジをものともせず、凛としていた美紅の姿を。
「俺は君のことを、とても素晴らしい女性だと思うよ。美しくてたおやかで、強くて毅然としていて…。所作や立ち居振る舞いも優雅で、着物がとてもよく似合う」
「ありがとうございます。でも、ジーンズを履いて車をかっ飛ばしたりもしますけれど…」
「そ、それは、まあ、うん。そうだけど。でも!ほら、色々な魅力があるってことで」
慌てて取り繕うと、美紅は何とも言えない表情で伊織を見た。
「気を遣わせてしまって申し訳ございません」
「いや、本当にそう思うよ?」
「ありがとうございます。でもわたくしは、一生独り身でも構いませんから」
「え、そうなの?」
「はい。その方が気楽でいいですし」
「そうなんだ…」
伊織はなぜだか妙にがっかりした気分になる。