「お母様、実は本堂様とは本日初めてお会いしました。父に頼まれて、本堂様にお渡しする手土産の和菓子をお届けに上がった際、ご挨拶させて頂きまして」
「まあ、そこで伊織ったらビビッと美紅さんに一目惚れしちゃったのね」
「するか!」
「照れなくてもいいってば。だからうちまで連れて来たんでしょう?」
「連れて来られたのは俺の方だ!」
「は?あなた、さっきから変よ。いくら美紅さんを前に緊張しているからって…。あら?その和菓子って、もしかして『京あやめ』かしら?」

伊織がテーブルの隅に置いておいた包みを覗き込む。

「ああ、彼女が買ってきてくれたんだ。父さんと母さんにって」
「そうなのね!ありがとう、美紅さん。早速頂いてもいいかしら?」
「はい。もちろんです」
「嬉しいわ。お菊、日本茶を淹れてくれる?」
「かしこまりました」

その後、和菓子を前に女性3人は楽しそうに盛り上がり、伊織だけはげんなりとその場をやり過ごしていた。