15分程走ったあと「目的地に到着しました。案内を終了します」と告げられ、美紅は首を傾げる。

「本堂様。ここがご自宅ですか?なんだか森のように木々がたくさんある場所ですが」
「ああ。このまま真っ直ぐ走ってくれ。右手に門が見えてくるから」

言葉通りにしばらく走ると、やがて大きな塀が現れ、その先に高々とそびえ立つ門扉が見えてきた。

美紅がスピードを落とすと、伊織がリモコンで門扉を開ける。

「門を入ったら、しばらく真っ直ぐ行ってから左に曲がって」
「承知致しました」

ゆっくりと車を進ませて左に曲がり、美紅は何台も車が並んでいる一角に駐車した。

エンジンを切ると、あー楽しかった!と伊織に満面の笑みを向ける。

その笑顔に一瞬ドキッとしてから、伊織は、はあとため息をついた。

「伊織様、お帰りなさいませ。まあ!そちらのお嬢様は?」

たすき掛けを解き、草履に履き替えた美紅が車から降りると、屋敷から出迎えに現れた家政婦が目を見張る。

「ああ、こちらは小笠原家のご令嬢だ。これからご自宅まで送って行く」
「小笠原様の?大変!すぐにおもてなしの準備を…」

60歳くらいの優しそうな家政婦は、伊織の言葉に驚いて慌てて屋敷に駆け込んでいく。

「待て、お菊!その必要は…」

伊織の声はむなしく取り残された。

「仕方ない。どうぞ中へ」
「いえ、そんな。お約束もなくお邪魔する訳には参りません。タクシーを呼んで帰りますので、ここで失礼致します」

美紅は深々とお辞儀をしてから歩き出す。
すると背後から先程の家政婦の声がした。

「お嬢様!どちらへ?伊織様、何をぼーっと突っ立っておいでですか。お客様を中へご案内してくださいませ」

有無を言わさずビシッと伊織にそう言うと、美紅にはにっこり微笑んで頭を下げる。

「ようこそお越しくださいましたわ。さあ、どうぞ中へお入りください」

そしてもう一度、伊織にジロリとした視線を向ける。

「伊織様!」
「分かったよ」

渋々といった様子で、伊織は美紅を屋敷の中に促した。