こうして切神と一緒菊乃が作ったおにぎりを食べることになるとは思っていなかったけれど、少しずつ緊張が解けていくのがわかる。
薫子がおにぎりを食べ終えるのを待って切神は立ち上がった。

「昨日はろくな挨拶もできずに悪かった」
「い、いえ。私なら大丈夫です」

神様がそれほど暇だとは思っていないし、こうして対峙して会話できる存在だなんて思ってもいなかった。
「改めて自己紹介しよう。私はこの神社の御神体である、切神だ」

「私は薫子と申します」
薫子は居住まいを正してお辞儀をする。

さっきほぐれた緊張がまた舞い戻ってきたようだ。
「薫子。今日は隣の部屋で眠るといい。ここでは体が休まらなかっただろう」

切神はそう言うと本殿の飾ってある隣の壁を手のひらで押した。
するとその壁が外側へ向けて動き、もうひとつの部屋が現れたのだ。

薫子は驚いて瞬きを繰り返す。