「わたくしは絶対に嫌です! この国を離れて恐ろしい帝国で暮らすなんて……。どうして王女だけがそんな目に遭わなきゃならないの!」

(……! マーガレット……)

 フランにしても同じ気持ちであったが、彼女のように堂々と訴えることは性格上難しい。ただ妹の意見に同調するように、視線を乗せるのが精一杯だ。

 父王は、苦渋の色を浮かべて答えた。

「……わかっている。だが我が国の王女は、フランとマーガレット、おまえたちふたりだけだ。どちらかに行ってもらわねば、シャムールは窮地に立たされる……」

 王の言葉を遮るように席を立った王妃が、マーガレットに駆け寄り、抱きしめた。

「あぁ、マーガレット……! 愛しい娘を地獄に送るようなこと、わたくしには耐えられません! 帝国の花離宮といえば、化け物のように恐ろしい形相をした冷徹な皇帝が、国内外から高貴な女性たちを集めて意のままにする、ハーレムのような場所だと聞きます。そんなところへこの子を預けたら、心を壊され、殺されてしまいます!」

「嫌よ、そんなところに行きたくない……助けて、お母様……!」

 部屋中に響く悲痛な鳴き声は止まず、話し合いどころではなくなってしまった。