(へ、陛下……!?)

 フランはあまりの衝撃に、びくんと大きく体を震わせ、全身を硬直させた。
 この部屋は、どうやら城にいくつもある皇帝の執務室のひとつ。そんな場所へ忍び入り、居合わせた相手が、よりによって皇帝本人だなんて。
 そしてその逞しい腕に、軽々と抱き上げられているこの状況。目を開いたまま気絶してもおかしくはない事態に、考えが追いつかない。

 壊れてしまうのではと不安になるほど、小さな心臓が乱暴な音を立てている。
 うつむき加減に顔を傾けた彼が、こちらの瞳を覗き込んできた。長いまつ毛の一本すらもよく見える距離に、鼓動がドッと大きく跳ねる。

 恐ろしいのに、視線を逸らせない。吸い込まれるかのように美しい一対の宝石に、身も心も捕らわれて動けなくなってしまう。
 気が遠のくような、長いようで短い奇妙な時間が流れた。そして――。

「皇帝の仕事場に忍び込むとは、いい度胸だ」

 普段は硬く引き締められた皇帝の口元が、不敵に緩められた。