とある立派な扉の前でメイドは立ち止まり、ワゴンを脇に止めた。
 彼女が中に向けて声をかけノックすると、扉が開いてひとりの人物が顔を出した。
 現れたのは、落ち着いた雰囲気を持つ年配の男性だ。服装や立ち振る舞いからして、位の高い人に仕える側近だろう。

「クリムト様。ご指示のとおり、軽食をお持ちいたしました」
「ご苦労様でした。もう持ち場に戻って構いませんよ」
 どうやら終着点はここらしい。部屋に入られて扉を閉め切られてしまったら、ここまで来た努力が水の泡となる。
 フランは足音を忍ばせ、ふたりが会話に気を取られている隙にワゴンに近寄ると、下段の収納スペースにするりと滑り込んだ。
 幸い下の段は空で、丈の長いクロスがこちらの身を隠してくれている。

 役目を終えたメイドの足音が離れていくと同時に、フランを乗せたワゴンが動きだした。引き継いだ男性の手によって、部屋の中へと引き入れられたようだ。
 扉が閉まる音がして、室内のいずこかに止め置かれる。