人目につかないよう廊下を進み、先ほど外から眺めていた厨房の出入り口の前へとたどりつく。
 アーチ型の通路に扉はなく、通行は可能だったが、中に入ることははばかられた。
 裸足で庭を歩いてきた自分の足の裏は、土まみれで汚れている。それに野生の動物が食事を作る場所に侵入したとあれば、騒ぎになるのは間違いない。

 見つめる方向からは、食材を調理するいい匂いが漂ってくる。忘れかけていた空腹感が、猛烈に襲ってきた。
 パンのひと欠片でも落ちていないかと思ったが、清潔な城内にそのような落ち度があるはずもない。
 諦めきれずに物陰から覗いていると、ひとりのメイドがワゴンを押して現れた。白いクロスのかかった台の上には、大きな銀色のドームカバーが被せられている。
 敏感なフランの鼻が、ひくひくと動いた。

(あ、あの中から、美味しそうな匂いがするわ……)

 メイドは、出来上がった料理をどこかへ運んでいくようだ。吸い寄せられるようにフランの足も動いて、うしろを追いかけた。
 小さな獣につけられているとは知らず、メイドは目的地を目指して進んでいく。

(どこへ向かっているのかしら……)

 新参者のフランは、城内の構造に詳しくない。広大な城の中は迷路のようで、はぐれたら迷子になってしまう。メイドを見失わないよう、必死でついていった。