ライズは先ほどの珍事を思い出し、視線を遠のかせた。
 妙に強烈な印象を刻みつけられた、あの場面。恐怖から逃れたいがための行動だったのだろうが、まさか布を頭から被るとは思わなかった。

 珍しい髪の色、くっきりとした目鼻立ちに、黄金色の瞳。媚びる様子もなく、初見ではそこまで不快に感じるものはなかったのだが……。
 蓋を開けてみれば、ライズが嫌う「美しいだけの花」だったということか。

 王女として生まれ、なに不自由なく甘やかされて育ってきたのだろう。おどおどして、気の毒になるくらい怯えていた。放っておけばそのうち音を上げて、祖国に帰りたいと泣きついてくるかもしれない。

 なんにせよ、臆病な王女を締め上げてまで情報を引き出す必要はない。ライズはすでに島ごと手中に収めてしまったのだから。
 気になる件については、ゆっくりと調べていけばいい。その意向と調査を命じると、有能な部下はしかと頷いて、それから少し残念そうに瞳を細めた。

「しかし、陛下が安らぎを得られるような女性は、現れないものでしょうか……」

 聞えよがしな呟きは聞き流し、机上の残務と向かい合う。
 クリムトが言うような「安らぎ」が訪れる日が来るとは思えなかったし、特に必要とも思わなかった。