突然の奇行に、皇帝が絶句している気配が伝わってくる。これ以上嫌われたくないという思いからか、言い訳が口をついて出た。

「ち、違うんですっ……! ただ、その、こ、怖くて……。こんな私で申し訳ありません……!」

 正気を疑われるような行動をしていることはわかっている。不敬だとこの場で捕らえられ、投獄されることも覚悟した。
 だが少しの沈黙のあと、痛いほど感じていた視線は、ふいっと逸らされた。

「……話にならん」

 静かな、けれど明らかな侮蔑の色を滲ませて、皇帝が席を立つ。

 冷たい空気を纏わせた長い足が、早足に横を通り過ぎていく。
 フランは、頭を抱えた格好のまま、しばらく立ち上がることができなかった。