「フラン様」

 どこからか、低くて張りのある声をかけられて、フランは顔を上げた。
 草間を踏み分け、近づいてくるのは、近衛騎士団の若き団長であるアルベールだ。

「アルベール! 来てくれたの?」
「もちろんです。王族の皆様をお守りするのが、騎士の使命ですから」

 爽やかな笑顔に、沈んでいた気持ちは吹き飛んだ。
 幼い頃から王女姉妹の護衛役として仕えてくれている彼だけは、フランに対しても差別することなく、親切に接してくれる。

 落ち着いた茶色の髪と同色の瞳、笑うとえくぼの出る甘やかな童顔。だが騎士団の長となるため厳しい鍛錬を積んだ肉体は逞しく、格好よく引き締まっている。

 アルベールは、窓から身を乗り出すようにして喜びを表したフランの前に立つと、丁寧に一礼をし、肩に担いでいた荷袋を下ろして、行商人のように品物を広げはじめた。

「いろいろ必要と思われる物をお持ちしましたよ。今夜は少し冷えそうなので、追加の毛布と、お夜食用のお菓子。それから、よく眠れるよう香りのいい茶葉……」

 王の許可なく騎士が勝手に宮殿内に立ち入ることはできないため、届け物は窓越しの受け渡しとなる。
 謹慎処分中のフランに差し入れなど、家族が許すはずはない。優しい彼は、内緒でここを訪れ、気遣ってくれているのだ。