やがて、表情がより冷淡になったように見える皇帝が、口を開いた。

「……待っていては次の太陽が昇りそうなので、尋ねさせてもらおう。シャムール王国に伝わる聖獣伝承について、知っていることがあれば教えてほしい」
「聖獣……伝承……?」

 二拍ほど遅れて、掠れた言葉を捻りだす。

 聖獣というのは「聖なる獣」という意味であろうことはわかった。けれど、そのような存在は見たことも聞いたこともない。フランたちにとって、先祖の獣人はむしろ愚かな存在であり未進化の象徴だ。とても神聖視されるようなものではない。

 答えが用意できずに視線をさまよわせていると、逃げることは許さないとばかりに、鋭い声が飛んできた。

「問いに答えてくれ。私は、時間がないと言ったはずだ」

 びくりと顔を上げると、射るように向けられている紫の瞳と目が合った。

「も、申し訳ありません。伝承、というのは心当たりがなく……」
「どんな些細なことでもいい」
「ほ、本当に、知らないのです。その、あまり勉強をしてこなかったので……」