三人が座る席の近くまで行くと、皇太后が腰を上げて近寄ってきた。威厳のある彼女の前では、体を強ばらせずにはいられない。なにを言われるのだろうと不安になり、立ち止まって両手を体の前で重ね合わせる。
 すると次の瞬間、皇太后に手を取られ、しっかりと握られていた。

「事情はすべてライズから聞きました。息子の……ルークの命を救ってくれたこと、心から感謝しています」

 皇太后の顔を見上げれば、普段はきりりと引き上げられている眉尻が下がり、少し泣きそうな表情を浮かべている。ひとりの母親としての正直な気持ちが滲み出ていた。
 話というのは、ルークを救ったことに対するお礼の言葉だったのだ。再び皇妃の部屋を使わせてもらっていることを反対されるのかもしれないと考えていたフランは肩の力を抜き、一転して喜びを噛みしめながら答えた。

「お力になれたのなら幸いです……。ルーク殿下のお身体の具合はいかがですか?」

 見れば皇太后のうしろでは、ルークがライズの手を借りながら、ソファから立ち上がろうとしている。それに気づいたフランは、慌てて声をかけた。

「ルーク殿下……! まだご無理をされては……」
「大丈夫。動かすと全身に棘が刺さるように走っていた痛みが、今はきれいさっぱり消えたんだ」