彼を見送ったシルビア姫は、どうしてかその場にとどまっていた。
 不思議に思っていると、彼女は流れるような動作でこちらに向き直り、フランの目をまっすぐに見つめながら声をかけてきた。

「シャムール王国のフラン王女ですね。お噂はかねがね伺っております」

 帝国に来たばかりのシルビア姫が、どんな噂を耳にしたというのだろうか。困惑しつつ、敵意のない笑顔を向けたが、相手はにこりともしなかった。

「お兄様に取り入るため、古参の令嬢たちを罠にはめ、追い出したそうですね。それも正攻法ではなく、卑怯な方法を使ったとか……」

 フランはぎょっとして息をのんだ。噂好きの貴族か、それとも離宮に残った令嬢たちの誰かが、誤った情報を与えたのだろうか。

「ち、違います。私はそんな……」

 シルビア姫は、言い訳は結構とばかりに片手を上げて制した。

「もちろん、噂をそのまま信じるわけではありません。けれど、本当に皆が言うとおり、あなたが帝国とお兄様にとって害悪そのものであるのなら、わたくしは容赦いたしません」

 聖女のような清らかな女性から引導を渡されて、金縛りのように固まってしまう。