なにが起きたのかと慌てて目を見開くと、吐息を感じるほど近くにライズの顔があった。
 どうやら額にキスされたらしいと思い至り、ぶわっと顔に熱が集まっていく。
 少し低めの声で、彼が言う。

「また、元に戻すつもりか?」

 寂しげに問われているのは呼び方のことだろうかと、沸騰した頭で必死に考える。
 彼の尊い名を、口にし続けてもいいということだろうか。そんな特別が、自分に許されるのだろうか。
 返事をしようにも言葉にならない。淡い期待ばかりがむくむくと膨れ上がる。
 じっと見つめ合ったまま、時が止まったかのように動けない。吸い寄せられるように見上げているこちらの表情は、きっと恍惚としていることだろう。

 なおもこちらの顔を見つめていた彼の長いまつげが、わずかに動いたのがわかった。
 そっと顎に指が添えられて、無言のままの彼が身を屈める。
 端正な顔が、ゆっくりと近づいてくる――。

(もしかして、唇にキスを……?)