(……ライズ様……)

 胸に熱いものが込み上げてくる。うわずる気持ちをどうにか静めようと、浅く呼吸を繰り返す。
 頬に置かれていた指がすいと動いて、フランの髪をひと房、すくい取った。指に絡ませたそれを口元に持っていき、口づけながら言う。

「寂しい思いをさせてすまなかった。母上に睨まれながら無理を通すより、従っておいたほうがおまえのためになると思ったんだが……。離宮に戻り、苦労はしてないか?」
「は、はい。十分な生活をさせていただいております」

 そう、きっと彼の言うとおり、きちんと分をわきまえることで皇太后の心証もよくなるはずだ。
 ライズの前ではつい気が緩んでしまうが、態度や呼び方にも気をつけなくてはと、あえて敬称を口にし、語りかけた。

「あの……『陛下』も、執務等でご無理をされてはいませんか?」

 すると、穏やかだった瞳が、急に不穏な色を帯びる。

「その呼び方――」

 ライズの不満げな声に、失敗してしまったことを悟った。

「あ、あの……」

 すると急に目の前に影が差しかかった。驚いて体を強ばらせ、目をぎゅっと瞑ったが、一拍ほど置いてから額に優しく触れたのは、温かくて柔らかい感触。

(えっ……?)