「……ええ、もう、いいのですね? ……わたしの役目も終わりました……」

女性は、光の粒に語りかけるように言った。

それを見た舞弥は女性にたずねる。

「あなたの役目って……」

「この想いを届けることでした。そのためだけに、千年、壱翁様を探していました。いつかわたしが、壱翁様に恋してしまうくらい見つめてきたのです……。でも、わたしの想いは、彼女たちの想いにつられていただけかもしれません……。彼女たちは、わたしに想いを預けていきましたから……」

「その……壱に無視されて、傷ついた方たちはどうなったのですか? あやかしだから、まだ生きているのですか?」

「千年も経てば、ほとんどの方が眠りにつきました。また、輪廻の輪に従って生まれかわった方もいらっしゃいます。生まれ変わっても、心のどこかに壱翁様への恋情と恨みがあったのでしょう。今の言葉を聞いて、わたしに『もう、いい』と伝えてきたのです……」

女性は、光の粒に照らされながら、やわらかい笑みを見せながら言った。

「あなたは……どうなるのですか? 化け猫さん……なんですよね?」

「わたしは、わたしの役目を終えました。あとは静かに眠るだけです――」

そう言った女性はふらりとよろけた。糸が切れたように。

「―――」

びっくりした舞弥が駆け寄ろうとしたが――

「――すず!」

その場にいなかった、新たな声がした。

舞弥が振り返ると、階段を駆け上ってきたらしい女性が肩で息をしていた。

その女性は、化け猫がとったひとの姿と瓜二つで――。

「お嬢様……」

地面に膝をついた化け猫は、少しだけ驚いたようだった。

お嬢様、と呼ばれた女性は、舞弥たちを追い越して化け猫をかばうように立ちはだかった。

「すずを傷つけないでくださいっ。私の友達なんですっ」

「え……と、あなたは……?」

化け猫と同じ見た目――化け猫は、実在するこの女性を模した姿をとっていたようだ。

「お嬢様、よいのです。わたしは役目を終えたのですから――」

「私の友達勝手にやめないでよ! すずがいなかったら私一人の時間なんてないし、また独りぼっちになっちゃうんだから!」

「お嬢様……」

「あの……娘さん? ちょっとふたりがどういう関係か説明してもらっていいか?」

玉が恐々と言うと、お嬢様と呼ばれた女性がはっとした顔になる。