「玉、怪我は……ないな。玉に怪我のひとつでもあればお前も焼くところだった」

冷えた声で大将に向かって言い放った壱の声は、玉も初めて聞くものだった。

『し、しかし、御身が神格に等しいといっても、神格ではあらせられない……。我らが心願を叶える力は……』

「言っただろう。神格を用意した、と。――榊」

「あー、一応呼ばれたから来たけどよー」

もさっとした態度で現れたのは、寝起き感のある榊だった。

『りゅ、龍神様!?』

「そうだけど?」

驚愕する大将になんでもない風に答えてから、榊は玉の頭を撫でた。

「榊、こいつは自分たちの格をあげるために玉を神格に献上したいそうだ。神格としてはどうする?」

『………』

目的の存在がいきなり目の前に現れて、総大将は息を呑んでいた。

「そうだな……」

『………』

考える素振りの榊を凝視する総大将。

「って、そんなこと認めるわけねーだろ。阿呆か」

榊は吐き捨てるように言う。

大将を見る榊に目に浮かぶのは軽蔑の色。

『なっ……』

「俺はな、てめえの家族ないがしろにする奴が一番嫌いだ。言ったな? このちびを自分の一族だと。だからお前の話は俺にも、ほかの神格にも通さない。選べ。ここから逃げて二度とちびと壱翁の前に姿を見せない、害さないと誓うか、この場で壱翁の焔(ほのお)に焼かれるか」

「俺が焼いていいのか? 気前がいいな」

榊の提案に、壱は乗り気だった。

壱翁が焔の眷属であることは知識として知っている玉はびくりとした。

『壱翁』の焔は焼き尽くすもの――業火(ごうか)だ。

今まで優しかった壱の、隠された側面。

「久しぶりだからな、うまく加減できるかわからないが、玉にしようとしたことの分焼いてやるから安心しろ。ああ、俺は『何ものも殺せない』から死ぬことはない。永劫(えいごう)焼かれ続けるだけだ」

壱は笑顔で言う。ひーっ、と玉は心の中で悲鳴をあげた。

『っ……!?』

壱が、空いている方の手を突き出して手のひらをほどくような動作をした。

壱のてのひらから生み出された焔は火球となって総大将の顔すれすれを焼いて消える。