全力を尽くした雷撃を放った玉の背に、目でわかるほどの雷撃はない。

限界までの妖力ぶつけたのに……。

妖力を失った玉の姿が、小さな子だぬきに戻ってしまう。

もう、だめだ。壱と舞弥に二度と会えない覚悟で出てきたのに、こんなときに思うのは最期にもう一度、ふたりに逢いたい、だった。

玉の目からしずくが次々とこぼれる。

ふたりは恩人だ。そして玉の光だった。

大事な家族と言ってもらえて、玉はほしかったものを手にすることができていたことを知った。

だからこそひとりで出てきた。

玉がいれば、いずれあやかしたぬきの総大将に居所を突き止められる。

そうなったとき一番危険なのは舞弥だ。

舞弥は霊感があって、格の低いものなら祓うことも出来るようだった。

だがその程度であやかしの総大将に挑むのは命を捨てる行為に等しい。

自分のせいで舞弥が危険な目に遭うなんて、玉には我慢ならない。

自分のせいでいずれ傷つけてしまうなら、今捨てようと決めたのだ。

けれど、

「壱……舞弥……俺は……俺は幸せだったぞー!」

「だったら勝手に出て行くな、ばかもの」

落ち着いた声が聞こえた。

この場にそぐわないようなその響きに、玉は、へ? と間の抜けた声を出した。

たぬき姿の壱がいた。

「壱!? なんで……」

「勝手にいなくなるな、と言ったのはお前だろうが。お前のところの大将に話をつけにきた」

壱が、子だぬき姿にしかなれないほど妖力を削った玉をかばうように立った。

「玉のところの大将、お前の目的は玉を献上すること……ということのようだな。捧げる相手は神格か」

『……お前は話がわかるようだな。そうだ。童ほど幼いが妖力が高いものは、いい供物になると思わないか。我らはあやかしの中では高位ではない。神格に認められなければ格はあげられないのだよ。そのために供物よ』

「なるほど。だが、玉は俺の家族なんでな。引き取り願おう」

「壱……」

俺は捨てるつもりだったのに、と玉は唇を噛んだ。

『そのような戯れ言で我らが引くと思うか?』

「思わない。だから、神格を用意してみたぞ」

すっと、壱が人の姿をとった。

今までは呪いのため、あやかしたぬきの追っ手に見せることのなかった姿だ。

それから片手で子だぬき姿の玉を抱き上げる。

『ぬしは……』

「壱翁と。これでもそれなりではあるはずなんだがな」

『い、壱翁様……!? これは……ご無礼を……』

壱の正体を知った総大将は急にかしこまった。

礼の形すら取る総大将に、玉は大きく瞬いた。やはり壱はすごいのだ。