「……ちゃんと考えてんのか」

「……俺は舞弥と一緒にいることを決めたが、やはりいつかは喪うことが決まっている。それは人間(ひと)とあやかしの埋められない差だ」

「………」

「命の終わりという形で離れることになったとき、お互いがずっと持っていられるのは思い出だけだと思っている。だから今は、舞弥がずっと先になっても、いつか黄泉比良坂(よもつひらさか)をくだるとき、あれは幸せだと、楽しかったと感じてもらえることをたくさんするつもりだ」

人の命は終わる。あやかしは人間よりも長命だが、いつか眠りにつくことは決まっている。

だが、あやかし七翁という立場の壱は、命を終えることを許されていない。

だから壱は、舞弥より先に逝くことは決して出来ない。だから舞弥に幸せだと思ってほしい。

「まあ……いざその時になったら、みっともなく泣き付いてしまうかもしれない」

壱は自嘲気味に言った。

おそらく、そちらの方が可能性は高いだろう。

今まで大事なものを持たなかった自分だから、やっと手にした幸せの象徴を失うようなことになれば……。

「……恋愛一年生の割には色々考えてるんだな、お前」

「刺すぞ貴様」

「突然過激派になるのやめろよ……。まあでも、朝倉舞弥で良かったと思うよ、お前が惚れたのが」

なんだかんだ付き合いの長い馴染みが見つけた幸せ。それだけで、榊も喜ばしいと感じる。

壱はジト目で榊を見た。

「やらんぞ」

なんだ惚気か、榊は払うように手を振った。

「俺には最愛がいるからそんなことしねーよ。……そういやお前の方は大丈夫なのか?」

壱を――『壱翁』を呪った存在。

榊は踏み入れないので、手を貸してやることも出来ないが……壱は難しい顔になった。

「……よくわからん。俺の周りにはまだいないが、あれは変化ならば一級品の妖異だ。何に化けてくるのか……それに不穏当な人間というのはどこにでもいるからな。とりあえず舞弥に危害が加えられるのが最悪だから、出来るだけ傍にいるようにしている」

「そうか。頑張れ」

榊の雑なエールを受けた壱は、ちらと目線をやってから虫干しを再開した。

「だが……舞弥の通っている学校が、綺麗過ぎて危ないかと思っていたんだが、何もないんだよな……」

「朝倉舞弥の学校って確か……ああ。それはそうだろうな」