「それは本当に赤ちゃんですね。玉、なんかあやかしの階級とかそういうのあるみたいだけど、この二人はそういうの気にしなくて大丈夫そうだよ。少なくとも壱は玉にひどいことしないよ」

舞弥が優しく言うと、玉の目は更にうるんだ。

「本当か? 嘘じゃないな? 壱翁様って呼んだ方がいいか?」

まだ混乱は収まらないらしい。

舞弥は壱を見やった。

「えーと……それはどうなの? 壱」

「やめてくれ」

「だって、壱でいいってよ、玉」

「い、壱……?」

そう呼ぶ玉の声はか細く震えていて、玉のショックの大きさを物語っていた。

壱がものすごく申し訳ない顔になっている。

「ああ。……なんかごめんな、玉。そこまで過剰反応するとは思ってなくて……」

「お前、自分の立ち位置にまるで無関心だからな」

「お前は黙ってろ。玉」

舞弥の腕でたぬき姿の玉の頭を、壱が撫でる。

「俺にとってお前は大事な家族だ。だから、今まで通りにしてくれると嬉しい」

「う……壱ぃいい~」

今度玉は泣き出してしまった。

舞弥も一連の流れから、壱と榊はとんでもなく高位の存在なのだとわかった。

わかったところで、舞弥は特に思うこともなかったが。

榊に対しては美也の彼氏という立場の方が強いし、壱はあくまで壱である。

舞弥、ふと思いついた。

「龍神様、『龍神様』って呼ばれるのと『美也ちゃんの彼氏さん』って呼ばれるの、どっちがいいですか?」

「ちょ、舞弥ちゃん何を訊いてるのっ?」

突拍子もなく、美也にとっては恥ずかしいと思う呼び方だったので慌てて舞弥と榊の間に割って入った。

しかし榊は真面目な顔で考え込んでいる。

「……美也の彼氏だな」

美也ちゃんのこと大好きだな、このひと。と思う舞弥。

「榊さんも答えないでくださいっ!?」

「わかりました。美也ちゃんの彼氏さんって呼びます」

「そうしてくれ」

「ま、舞弥、お前なんと怖いもの知らずな……」

落ち着きを取り戻していた玉が、豪胆な舞弥の腕でぶるぶる震えだした。