「玉、なんだか知らないけどうるさい」

「お前な! あやかし七翁ってのは開闢(かいびゃく)から存在するあやかしの祖で、神格にも等しく扱われるお方なんだよ! 俺なんかお会いすることもできない存在! 俺ふつーに壱に飛び蹴り喰らわしたりしてたー!」

玉の騒ぎに、壱はおろおろしながらなだめようとした。

「玉、別に咎めないから」

「ぴぎゃー! 死罪じゃー! 俺は死罪じゃー!」

玉が恐怖のあまりびびりちらかしている。

「――何騒いでいるんだ、このちびは」

ひょいっと美也の背後から顔を見せたのは、美也の彼氏と紹介された――

「榊さん! 出てこないでって言ったじゃないですかっ」

美也が手をばたつかせて、玉に榊を見せないようにしている。

「いや、なんかすごい騒いでいるから。ようこそ、朝倉舞弥」

「お邪魔しております。えーと……龍神様、なんですよね? 美也ちゃんの彼氏の」

以前姿を見た時と違い、和服姿の榊。

甘やかな顔立ちの壱と違って、精悍な顔つきだと思った。

「しばかれるんだ……俺、龍神様と壱にぼろ雑巾になるまでいじめられて川に流されるんだ……」

玉からは魂が抜けかけていた。

榊は平坦な目になる。

「どこまで残酷な性格になってるんだ俺は。そんな無意味なことしない。壱翁はどうだか知らんがな」

「壱は俺をぼろ雑巾にするのか!?」

ショックを受けた玉が目をまんまるに見開いて叫ぶと、壱が榊を睨んだ。

「しっかり俺の分まで否定しろ馬鹿! 玉、手塩にかけて育てたお前にそんなことするわけないだろう」

壱が焦って言えば、玉はうるうるした目で舞弥を見上げる。

「舞弥、本当か? 壱は嘘を言わないか?」

「短い付き合いの私に答えを求めるほど追い詰められている……あの、壱、龍神様、玉の立ち位置ってどうなってるんですか?」

むしろ舞弥が助けを求めたい状況だった。

玉のびびりようが半端ではない。

「んー、玉は生まれてから三〇年くらいだから、本当にまだ赤ちゃんなんだよな」

「人間にしたら生後一日も経っていないくらいか」