「え? 舞弥?」

「寒い……」

壱を抱き込んだ舞弥は、言葉通り寒いのだろう、ぎゅうぎゅうと壱を抱きしめてくる。

「ま、まいやっ」

これはかなり心臓に悪い。

今まで、寝るときは必ず舞弥の布団とは別に敷かれたタオルの上で寝ていたので、こんなに密着したことは初めてだった。

壱の心臓は跳ね続ける。

「寒い……壱、あったかい……」

熱のせいでぼんやりしたその声に、心音が鳴り響いていた壱の頭ははっとした。

舞弥はわざとや、壱への嫌がらせのためにやっているのではない。

純粋に寒くて、湯たんぽ代わりに壱に暖を求めているのだ。

「………」

嫁入り前のおなごとこうも密着してしまっていいのだろうかと悩みに悩みまくったが、寒がっている舞弥をひとりにしておくことは駄目だと思い至って、おとなしく湯たんぽになる覚悟を決めた。

きっと、覚悟を決めたときカッと開いた目には強い炎のような光が宿っていただろう。

(そもそもなぜ俺がここまで心臓を逸らせなければいけないっ。もうどれだけ生きたかわからないのに、こんなに心音が早いのは初めてだ。……まさか俺も病気なのか!? ……いや、それにしては心音が早い以外は何もおかしくはない……顔がちょっと熱くて舞弥の方を見られないのは……きっと気のせいだ……。そういやこの前榊が初期症状とか言ってたな? ……久方会わないうちにわけわかんなくなったな、あいつ……ほんと今度喧嘩売って来よう)

舞弥にドキドキする理由を探していた壱だが、榊に八つ当たりする考えになってしまった。

「………」

壱は心頭滅却の構えだ。邪念は一切持ってはならない。

俺はたぬき、もふもふ、あったかい、もこもこ……その言葉だけを繰り返した。

さながら素数を数える人間のようである。

そしてどれくらいかわからないくらい時間が経って――その間、壱は微動だに出来なかった――、舞弥が目を覚ました。

「……あれ? 壱?」

「………」

それまでかけらも動かなかったため、咄嗟に喉が動かず返事が出来なかった。

筋肉も動かなかったので、よう、と手をあげることも出来なかった。

「……夜這い?」

「違う! 決してそんなやましいことはしてなごほごほごほっ」

あらぬ疑いをかけられ、がばりと飛び起きて即座に否定した壱は急に喋ったためせき込んでしまった。