「話したら俺からは離れて言っちゃうだろうなって思ったから、最初で最後のデートのつもりで誘った」


「うん…」


ナイフとお皿が擦れる音が静かな店内に響く。


「でも、違った」


「うん」


その音が止まった。


「ありがとう」


赤い目を三日月型に細めて、蒼空が微笑んだ。


無理して作ったものではない、柔らかくて自然な笑みだ。


「また、デートしてくれる?」


「もちろん。私でよければ、いつでも」


私が蒼空から離れていくことは絶対にない。


私にできることなんてないのかもしれない。


でも、そばにいるだけなら…。


それくらいなら、私にもできる。


蒼空の秘密を知る人間として、蒼空を支えたい。


「花純、俺の妹に会ったことあるっけ」


「一度だけ」


転校してきてすぐくらいに、下校途中に駆け寄ってきた小さな女の子が蒼空の妹だったはず。


蒼空に似てて可愛らしかった。