「家にはいなかった。思い当たるところは探したけど見つからなかったから、街に出掛けてるのかもね」


「そう…なのかな」


蒼空は、私との約束をすっぽかして出掛けるような人じゃない。


おかしい。


絶対に何かある。


「教えてくれてありがとう」


家に行ってもいないのなら、あの滝かもしれない。


行き先を変えて“秘密の滝”へ走る。


蒼空との想い出の場所。


心の傷を察した蒼空が教えてくれた安らぎの場所、ひとりになれる場所。


蒼空が、私は一人じゃないんだと教えてくれた場所。


何かあったとするなら、きっと蒼空はそこにいるはず。


「お願い、いて…」


森に入り、細い道を突き進む。


薄紫の浴衣が茶色く霞んでいく。


「蒼空!!蒼空!いるんでしょ!いたら返事して!」


シーーーン


虚しい空間が広がっているだけ。


虫の声だけが耳に届く。


秘密の滝にも蒼空はいなかった。


足跡もなく、ここに来た形跡はなかった。


じゃあどこに…?


蒼空はどこに行ったの…?


どうして、私に何も言ってくれないの…?


「ねぇ蒼空…っ」


祭りに一緒に行けなくてもいい。


だけど、安否だけは教えてよ…っ。


怖いよ。


蒼空を失うのが、どうしようもなく怖いよ…。


「返事してよぉ…っ、蒼空ぁぁっ!!」