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髪飾りを買ったあとはファストフード店でお昼ごはんを食べ、映画を観に行った。


あっという間に5時になり、そろそろ帰らなきゃいけない時間になった。


帰りの時間が近づいてくるにつれ、蒼空の表情は暗くなっていく。

 
駅に近づけば近づくほど、歩く速度が遅くなり、しまいには駅の手前で立ち止まってしまった。


「…帰りたくない」


「…じゃあ…もう少しブラブラする?」


それくらいのことしか私にはできない。


せめて今だけでも笑顔にしてあげたい。


「…早く帰らないといけないから」


「…そっか」


「でも、帰りたくない。日和を守り続けるのはもう疲れた」


まだ幼い日和ちゃんを守れるのは蒼空だけ。


でも、蒼空だってまだ中学生だ。


蒼空一人に押し付けるなんて、酷すぎる。


蒼空のお母さんは日和ちゃんを守らない。


親なのにどうして。


どうして蒼空のお父さんは虐待し続けるの。


蒼空はこんなに苦しんでいるのに。


ひどい。


本当に酷い世界だ。


「……逃げてもいいんだよ」


蒼空一人で抱え込む必要ない。


苦しかったら逃げればいい。


「…花純の家、泊まっていい?」


初めてだった。


蒼空が私を頼ってくれたのは。


こうしてSOSを出してくれたのは。


「もちろんだよ。さっ、帰ろう」