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あっという間に年が明けた。


そして、あっという間に3学期は過ぎ去っていった。


春。


桜の蕾が膨らみ始め、咲き誇る日を今か今かと伺っている。


温かい風が私たちの間を吹き抜ける。


「春の匂いがするね」


「春の匂い?」


蒼空と手を繋ぎながら、海道を歩く。


蒼空との出会いはこのあたりだった。


駅から続く小道を降りると海が面した岩場に降りられる。


そこで出会った。


懐かしい想い出だ。


「春にしか感じないこの匂い、好きなの」


「ふーん…」


春の匂い…。


あまりよく分からない。


季節に匂いなんてあるのかな。


そういえば蒼空は、雨が降り出す前から“雨の匂いがする”って言っていた。


不自然な人…。


「こういう田舎道を好きな人と二人でのんびり散歩できるって、すごく幸せだな」


「うん。幸せ。ずっとずっと続いてほしい」


「続くよ。絶対花純のことは手放さないから」


歩みを止め、静かに向かい合う。


「何年、何十年先も、一緒にいよう」


曇のない透き通るような瞳。


真っ直ぐなその想いに、心が刺激される。


「プロポーズ?」


からかってしまったのは、照れ隠し。


本当はすごくすごく嬉しかった。


蒼空も私と同じ想いなんだ、って。


ずっと一緒にいてくれるんだ、って。


大好きだよ、蒼空。


私も絶対に手放さない。


おじいちゃんおばあちゃんになっても、ずっと一緒にいようね。