「千花ちゃんみたいな目に遭ってほしくない」


千花さんのこと、トラウマなんだ…。


まだ小学生だったんだもんね…。


なんて罪深い父親なんだろう。


蒼空なことをこんなにも傷つけておいて、どうして裁かれないんだろう。


「俺はさ、花純が味方でいてくれるだけで嬉しいよ。それ以上のことは求めない」


蒼空は、人からの支援を受け取らない。


受け取“れ”ないのかもしれない。


お父さんが怖いから。


千花さんという実例があるから。


そこをなんとかしたいのに、蒼空と私を隔てる壁は想像以上に厚い。


そう簡単には壊せないほど、頑丈で分厚くて、重い。


「心配してくれてありがとう。花純のそういうところ、すごくありがたいし素敵だと思う。でも、俺は大丈夫だよ。今日だって紬と喧嘩するぐらい元気だし?」


無理して笑うのが蒼空の癖。


そうしていないと自分を保てないのかもしれない。


仮面を剥がすことが蒼空のためになるのか。


…きっと、ならない気がする。


蒼空にとって仮面は自分を守るもの。


それを剥がせだなんて、言っちゃいけないよね…。


「わかった。でも、話はいつでも聞くからね。それぐらいはさせてよ?」


「りょーかいっ。んじゃ、これからもよろしくね。さっ、教室戻ろっかー」


仮面をしっかり被った蒼空は、いつも通り明るかった。


だけど私はもうその明るさを前と同じようには捉えられなかった。