満開だった桜が少しずつ散り始めた4月。


半開きの窓から生温いそよ風に乗った桜の花びらが飛んできて、机に落ちた。


「花純はさぁ、好きな人、いないの?」


「…え?」


高校に入ってからできた友人の友坂奏(ともさかかなで)に聞かれ、心臓がドキリと嫌な音を立てる。


好きな人。


その言葉の響きは未だにトラウマだ。


「花純のそういう話、全然聞かないなと思って」


恋愛の話題は意図的に避けてきた。


好きな人を取られたという理由で虐められたことがあるから。


そして、大好きだった人を失った経験があるから。


思い出したくなくて、口にすることはなかった。


でもまぁ…高校生だもん、聞かれるよね…。


「好きな人、いるよ」


いい加減、清算しなきゃだね。


「え!そうなの!?誰誰??何組?」


「この学校の人じゃない」


どこにいるかも分からない。


そんな人。


「え、詳しく聞かせて!」


「…長くなるよ」


これは私なりのケジメ。


もう、彼のことは忘れなきゃいけないから。


バイバイ、蒼空。


大好きだったよ。


……ホントはそう…直接伝えたかったな…。


「あ……」


強い風に吹かれ、桜の花びらは遠くへ飛んでいってしまった。