夢を視ていたのかもしれない。
 そう、思った。
 今日の全工程、全員の奏者が演奏を終えた後で、まさか自分の名前が呼ばれるだなんて。
 陽向にはあれだけ堂々と言いもしたけれど、自分が一番驚いていた。
 誰が、本格的な練習を数ヶ月しかしていない人間が、一次予選突破を決めるなんて予想出来たことだろう。
 自分でも、ミスタッチをした時には、もう駄目かとも思ったほどだった。
 元ピアニストである杏奈さんの太鼓判を授かった上での登壇だったとは言え……いや、それこそが、緊張感に退かないだけの自信に繋がっていたのかもしれない。

 まだまだ粗削りだ。その自覚はある。どこに出ても恥ずかしくないと言えるような演奏は出来なかった。
 それでも、客席からこちらを見つめる母が目に涙を溜めている様子を見ると、やっぱり出て良かった、次へと繋げられて良かったと、素直にそう思う。
 隣では涼子さんが当然のように頷き、微笑んでいる。
 私が杏奈さんとの練習に勤しんでいる時、二人の間で何か話し合いでも持たれたのかな。
 表彰後、純白のドレスを身に纏いながら母の元へと駆け寄った私を、まず第一に抱き締めたのは、隣からひょっこり現れた杏奈さんだった。 

 よくやった。頑張った。最高だった。

 そう言って、目の前で行き場のない両手を震わせている母には気付かないままで。
 二次予選は数日後だけれど、その晩だけは、祝杯をあげて喜んだ。
 涼子さん手製のご馳走に、珍しく高価なお酒とジュース。杏奈さんも呼んで、ささやかではあったけれども、それは私の背中を押すには十分過ぎるリフレッシュになった。