玲菜と友だちになったのは小五の時だった。その時もあたしはクラス替えの自己紹介で同じ失敗をやらかして、周りの子たちが引いていたけど玲菜だけは「あんたって面白いねー」と笑ってくれたのだ。
 その後も小六のクラス替えから中学三年まで、あたしが何回同じことをやらかしても玲菜だけは引かずにいてくれている。ただ単に慣れてしまっただけかもしれないけど。

 思えばあたしは、小三くらいのころから勉強にハマり、他の子たちを置き去りにしてどんどん前に進んできた。中三の時点で高三までの学習カリキュラムを頭の中にインプット済みで、高校だってどのレベルの学校も選び放題だった。
 でも、勉強が面白くなっていくのと反比例して、周りの子たちが(玲菜はあたしの話についてきてくれるので別として)おバカに見えてきた。そして学校で受ける授業が退屈に思えてきたのだ。
 そして極めつけがテスト。特に数学。答えが合っていても、問題の解き方が違うっていうだけで容赦(ようしゃ)なくバツにされた。数学の教師っていうのは、どうして「自分の教えた解き方が絶対に正しい」って生徒に押しつけたがるのだろう。あたしにはそれがどうにも納得できない。

「あーあー、麻由。あんた、これでこのクラスで孤立フラグ立っちゃったかもねー」

「え~~⁉ まぁいいや。別にみんなと馴れあうつもりないし、玲菜がいてくれるなら孤立じゃないもん」

「安心するのはまだ早いよ。あたしだっていつ裏切るか分かんないんだから」

「何だと、この薄情ものーー!」

 あたしは玲菜のブレザーの両袖をつかんで揺さぶった。

「……なぁんてウッソ♪ あたしは絶対にあんたを見捨てないよ」

「何だよもー。ビックリさせないでよぉ」

 何だかホッとして、あたしは彼女の袖から手を離した。

「――おい、お前ら。いつまでじゃれ合ってんだ? 他のヤツらみんなとっくに帰ってるぞ」

 そんなあたしたちのじゃれ合いを見かねて、長尾先生が呆れたように言った。

 入学式には両親とお姉ちゃんも来ていたけど、先に帰ってもらった。一緒に帰るのが(わずら)わしかったから。というか、あたしは家族とも折り合いが悪いのだ。

「はいは~い。あたしたちももう帰るから、心配しないでよ先生」

「……分かった。つうかお前ら、俺に対して()れ馴れしくね? まぁ、別にいいけど」

 長尾先生は、あたしたち生徒にタメ語を使われることを別に気にしていないみたいだ。多分、自分も高校時代はそうだったからなんじゃないかとあたしは勝手に思っている。

「んじゃ麻由、あたしらも帰ろっか。昼マック食べて、それからカラオケ行こ♪」

「うん、行こ行こ♪ 先生バイバ~イ。また明日ね~」

「おう、また明日な」

 あたしと玲菜が立ち上がって笑顔で手を振ると、先生も笑顔で片手をあげてくれた。

 ……高校デビュー、失敗したかと思ったけどあながちそうでもなかったかも。だってあたしには玲菜がいるし、こんないい担任の先生にも出会えたんだもん。