「慣れるんじゃないよ。そんなことに」
 その言い方はドライだった。直は視線を持ちあげた。
「彼のことが好きじゃないの? 君たちは、付き合ってるんだろ」
「好き……のはずなのに」
「はずなのに?」
「一年の文化祭で知りあって。それから話しかけられることが増えて。告白されたから付き合ったんです。私は、ただ純粋に一緒にいると楽しいって思っただけ。それ以上を望んでいなかったのに」
「あそう。純粋ねぇ……」
「ある日突然キスされた。それから、何度も。……もうつかれた。私、病気なんです。おかしいんです」
 直が弱々しくいうと、離れて座るその人は、顔をむけて「病気って?」と訊いた。
「キスだけじゃない。抱かれたり、手を強く握られるのもだめ。本当は体に触られるのが嫌って思う」
「それだけで病気というのは、おおげさじゃないかな。ちなみに君さっき、自分から僕の手を握ってきたじゃないか」
「自分からは触れるんです。なのに変なんです」と疲弊しきった声を出した。