「そう。抱き合うとか。性行為するとか。この世には、そういう性的な関わり合いに興味がない人間もいる。もちろん健常者だよ」
「なんの話をしてるんですか」
「なんの話って。だから、君は性愛を持たないんじゃないかって。あくまで僕の私見だけど」
「ウソ。そんな人間この世にいるんですか」
「いるよ、ここに」
 彼の受け答えは、自然でためらいがなかった。
「つまりあなたは、その無性愛者なの?」
「そうだよ。君には僕が病人に見える?」
「みえない」
「君さ、彼と別れなさい」
 すると直の視線は重く床に落ちた。首を左右に振っている。
「なんで。弱みでも握られた?」
「違う。ただ私、付き合ったの初めてで。別れ方がわからない」
「別れ方がわからない? というかあのクソガキ、さっき『やべぇ先生』っていいやがったな」
「やべ……、まさか。あなた夜部先生ですか?」

 3
 
「まさか。というと?」
「えっと。友達からきいてたイメージとすごく違ったので」
「あぁ、それって。直接会って話したこともない人間を無意識なバイアスでこんなひとって決めつけること?」