「あのさっ、奏」

「うん?」

「……わたしのこと、やっぱりボーカルの候補に入れてもらえないかなあ。も、もちろん他にもボーカルの候補がいるだろうから、そしたらちゃんとオーディション受けるから。わたし……やっぱり奏と一緒に夢を追いかけたい。だからっ……お願いします」

 そう言うと、わたしは奏に向かってがばっと頭を下げた。


 言った。

 やっと言えた。

 東京に旅立つ奏の背中にかけそびれたことを、何度となく後悔した言葉が、やっと言えた。

 手も足も震えが止まらないけど、もう一度同じ後悔はしたくないから。


「わたし、やっぱり大好きなの!」

「…………」


 反応が、ない。

 不安に駆られ、おそるおそる顔をあげると、顔をほんのり赤く染めた奏が立ち尽くしていた。

 なんで?

「……ち、ちょっと待って! い、今のは愛の告白とかじゃなくて、奏の作る音楽が大好きってことだからね!?」

「……ははっ、だよな! びっくりするような言い方すんなよな。ったく」

 うしろ頭をかきながら、恥ずかしそうに奏が言う。

「でも……うん、栞にそう言ってもらえて、すげーうれしい。あ、そうだ」

 そう言いながら、奏がスマホケースの中からなにかを取りだした。