「あーそっか、そういうことか。大学でいい人見つけたんだろ。なんだよー、友だちはいないけど、彼氏はいるってオチか。いつか俺にも紹介してくれよな。あー、でもヘンに俺らの仲を勘繰られてもだし。っつーか、こんなとこにいる場合じゃなくね? ほら、早く彼氏に連絡して、二人でケーキ食べれば……」

「だから、そんな人いないってば。もし本当にいたら、こんなとこまでついてこないし」

 なんだかおかしなテンションでまくし立てる奏の話に、途中で無理やり口を挟む。

「あー……だよな。なんか、逆にごめん」

「そんなふうに謝られると、逆に傷つくんですけど」

 叱られた犬みたいにしゅんとする奏に向かって、口を尖らせて見せる。

「重ね重ねごめん」

 その後、しばらくの間わたしと奏の間に微妙な沈黙が落ちた。

「……雪、ちょっと弱くなってきたみたいだし、そろそろ帰るか」

「うん、そう……くしゅんっ!」

「ほら、結構寒いし、お互い独り身で風邪ひいたらヤバいしな」

「そうだよね」

「ま、バイト行ったらまた会えるってわかったわけだし。とりあえず、これからもよろしくな。仕事仲間として」

「うん。……仕事仲間として」

 自分で言っておきながら、チクッと胸がうずく。


 本当にそれでいいの?


 手早く片付けをはじめた奏の手元を、しばらくの間黙って見つめる。


 もう帰る気満々だよ?

 後悔……しない?