高校卒業と同時にお父さんと同じ夢を追って上京した奏への、「本当は大学くらい出てほしかったんだけどね」っていう奏のお母さんのぼやきを何度か聞いたけど、奏の夢を全力で応援しているってことくらい、わたしでも知っている。

 だからきっと、自分にできることがあればなんでもしてあげたいって思っているはずなのに、奏のお母さんは黙って奏のことをずっと見守っているんだ。

 親の名前は絶対に出さない、俺自身の力を絶対に認めさせてやるんだっていう強い決意を抱いて、奏が上京を決めたから。


 そんな奏と自分を比べるたびに、中途半端な自分がイヤになる。


 大学を辞めてまで、せっかくここまで来たのに。

 結局あと一歩が踏み出せないまま。

 このままじゃダメだってことくらいわかってる。

 けど……。


「もうさ、わたしは普通に大学出て、普通に就職して、普通に誰かの奥さんになって、それで、人生終わっちゃうんだよ、きっと。そういう普通の人生を送るの」

 無理やり奏に向かって笑って見せる。

「いや、普通に結婚するのって難しくね? だって俺、まだ彼女すらいたこと……」

 そう言いながら、チラッとわたしのことを見る。