あんなに『もう夢を見るのはやめよう』って思ったはずなのに。

 だけど、諦めきれなかったから、今ここにいる。 


 一年地元の大学に通ったものの、一度諦めたはずの歌の道がどうしても諦めきれなくて、必ず大学は卒業するって両親と約束して、東京の大学を受け直して、奏より一年遅れで上京……した。

 大学に通いながらバイトして……結局諦めきれないっていう思いが心の中でくすぶりながらも、実際はなにもできずにいる。


 まっすぐに音楽の道を目指す奏がまぶしすぎるよ。


『だって、奏はサラブレッドだから』って、本人が一番みんなに言われたくないことを考えてしまう自分が、本当にイヤになる。

 奏の家は、お父さんは世界的なギタリスト、お母さんはプロ歌手の音楽一家。

 だけど奏が小四のとき、お父さんが海外ツアー中に事故で亡くなって、そのときにお母さんも歌手を引退して、地方の県に住むわたしんちの向かいに引っ越してきたんだ。

 歌手にずっと憧れていたわたしは、奏のお母さんに歌の基礎を教えてもらったの。

 といっても、基本は好きな歌を好きなように歌うだけだったけど。

「その『好き』って気持ちが一番大事なのよ」

 って何度も何度も言ってくれた。

 だからわたしは、歌のことがもっともっと好きになっていったの。