「うーん……あ、じゃあさ、明日スタジオ入る予定なんだけど。そんとき、それ持って遊びに来いよ」

「へ!? いやいや、練習の邪魔するわけにいかないし。だって、奏だけじゃなくて、他のメンバーも来るんでしょ?」

「いや……実はさ、近々メインボーカルのやつが抜けることになって、正直困ってんだよね」

「え、ボーカル? それ、すごい大変じゃない?」


 むしろ、バンド存続の危機と言ってもいいくらいだ。

 動画投稿サイトで奏のバンドの動画を見たことがあるけど、小柄な女の子なのに、すごい声量で、ぐいっと歌の世界に引き込まれたっけ。

 ひょっとして、もっと人気のバンドに引き抜かれた……とか?


「だろ? だからさ、スタジオ練っていっても、実際は『これからどうしよう』って話がメインになると思うんだよね」

「だったら、なおさらだよ。わたしがそんな大事な話し合いの邪魔をするわけにいかないし」

「だからっ……栞、そのために東京来たんだろ? バイトしながら大学通うため、だけじゃないよな?」

 奏が、いつになく真剣な眼差しでわたしの目をじっと見つめてくる。


 そう……だけど。


「……でも、最近全然歌えてないんだよね。だって、さすがにワンルームのアパートで大声で歌うわけにいかないし、東京で一人カラオケする勇気もまだないし……」

 もごもごと口の中で言い訳する。