「…だけど、どんなに忘れようと思っても、ふと考えるのは茉莉花のことばかりなんだよ。誰よりも大切で失いたくなかった」



ずっと後悔していた。


好きだから離れるんじゃなくて、好きだからそばにい続ければよかったのに。


本当は千瑛に村井先生のところに行かないでほしかったのに、どうして言わなかったんだろう…。



「…もしかして、記憶戻って…?」


「違う…っ。違うの。記憶なんて最初から失ってなんてない…っ。ずっと忘れたフリをしてたの…」



忘れるなんてできなかった。とっくに私の全ては千瑛だったから。



「…千瑛のことがずっと好きなの。本当は村井先生のところに行ってほしくなかった…っ。別れたくなんてなかった…っ!」



気づいたら、千瑛の胸の中にいた。


久しぶりの懐かしい温もりに、涙はもっと溢れて千瑛のセーターを濡らしていく。



「ごめん。茉莉花の気持ちに何も気づいてやれなくて」