(心菜side)

今日は嬉しかった。
蓮さんが何より少しずつお父様を受け入れようとしてくれた事、私の事を少しの火の粉からも守ろうとしてくれた事。

いろいろな彼が今日1日で見れた気がして、それだけで満足だ。

蓮さんは誰よりも強くて優しい。

きっと、子供の頃からのわだかまりや葛藤があったはずなのに、私のわがままに寄り添ってくれた。

いつだって、私の想いを大事にしてくれる。

暖かなお風呂に浸かりながら、束の間ホッと一息つく。

髪を乾かしリビングに戻ると、珍しくソファで腕を組みうたた寝してる蓮さんがいた。

近付きそっと額にキスをする。

「お疲れ様。」
小さく呟き、隣に座ろうと目線を動かす。

と、フワッと引き寄せられるような感覚にびっくりして振り返る間もなく、気付けば蓮さんの膝の上。

「びっくりした…起きてたの?」
膝の上から仰ぎ見る。

「うとうとしてただけだ。心菜の気配は直ぐに分かる。」
悪戯っ子のような笑顔を向けられて、思わずドキンッと心拍が急上昇する。
ぎゅっと抱きしめられて顔が熱くなる。

「温かいな。のんびり出来たか?」

「うん。やっぱりバスタブに浸かれるのって疲れが取れるよね。」

日本人向けに作られているこの家は、まるで日本にいるかのような錯覚を覚えるくらい暮らしやすい。

「この家、実は親父の会社の社有なんだ。
その事もあって親父を突き放す事も出来なかった。心菜が良い機会を作ってくれたから、改めて礼も出来たし良かった。」

「えっ!?ここお父様の会社の物だったの?私もちゃんとお礼を言いたかった。」
何で教えてくれなかったの?と抗議を込めてムッとした顔を向ける。

「ごめん、心菜に話すと気を病むといけないと思って。」
笑いながら蓮さんがそう言う。

なんて優しい人なんだろう。

この人の側は安心してホッする。

正直なところ慣れない異国の地で、妊娠を確信して独り不安で心細かったけれど、彼に再会してからいつしか不安は消え去り、安心感と安らぎをもらっている。

幸せとはこう言う事なのだと形として実感している。

「蓮さん、改めて今日はありがとう。きっと…いろいろ葛藤はあったでしょ?」

気にするなと言うように首を横に振り、
「過去の事はもう水に流すつもりだ。
それよりも、心菜とチビとの未来の為に生きたい。」